原点
のん気平兵衛は何ひとつ
定義することができないでいた
「力あるもの」
と言ったとしても
その言葉には
当てはまるものは
存在しないことは分かっていた
「幸福」
という言葉を用いることを
躊躇(ちゅうちょ)したのは
言い当てようとしたものが
その実質を
もっているのかどうか
疑わしく あまりに(現実)と
かけ離れていることを
おそれたからだ
そんな 彼が
やがて恐れることなく
さまざまなことばを用い
世のあらゆることを
物語るようになった
彼の言葉には力がなく
世の中を動かすことなど
できないことだと
始めからあきらめ その上で
軽口をたたくような具合いに
言葉をもてあそぶことが
できるようになったからだ
ところが不思議なことに
言葉というものを
軽く使えば使うほど
(人生の本当の重さ)が
見え隠れし始めたのだ