追伸

のん気平兵衛の夢

のん気平兵衛の夢

のん気平兵衛の夢

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 これから先 なりたいもの
       やりたいこと

  ゆめ が あるとすれば
      どんな ゆめ ?


   のん気平兵衛に 
      そんな 馬鹿なこと  

   聞かない方がいいと
         思ったのに

 聞いてしまった人がいてね 

   まあ 彼が
  どんな答えをするか

   興味はあったから
  黙って聞いていたのさ


  ぼくの ゆめ ?
   
 のん気平兵衛が
  戸惑ったように

   口ごもった
   そして しばらく
  経ってから ポツリ

   ポツリ 話し出した

  そうだなあ 80年
    生きてきて

  いろんな ことに
  挑戦して いろんな

  ことを やったから
   今は これを

    やりたい 
   ここへ行きたい

  これを食べたい 
    というのは

  あまり ないかな

  それって 何んにも
    ゆめ ない

   ってこと?
   よせばいいのに
    相手は 

   のん気平兵衛を 
    あおり立てた


      2
 あははははは
   のん気平兵衛は 
 笑い出した そして

 しばらく 笑った後
   ダークマター 
  と言ったんだ

  何 ? それ ?
 だれだって 驚くよね 
呆れた顔で見つめていると
   続けて言った
  知らないかね 
 宇宙に充満している

  なぞの物質さ 
  素粒子の一種が

 その候補とされている
  しかし 物理学者が
 正体を突き止めようと

  日々 研究や
 実験をしているが

   いまだ 
 その正体がつかめない

 
 相手は 拍子抜けして
   黙っていると

  さらに 続ける

      3
  わしの いのちは
   限りがある もう

    八十年も 
 生きているから それは

  間違いのないところだ 
    おそらく

 二十年は もたんだろう
    死んだら

  どうなる ? それを
    考えている


  死んでからのこと 
   考えてるって ?


 相手は 事の成り行きに
    戸惑って

   絶句した そりゃ
    冗談半分に

   問いかけたのに
    トンデモナイ

 話になってしまったと
 後悔してる
みたいだった
    ところが

  のん気平兵衛の方は 
   調子に乗ってきた

 わしが 死んだら 
  どうなる? そのまま

  放っておくわけにも
   いかないから

  葬式をやって 斎場で
   順番待ちして

  高温の電気炉で
   焼き上げるよね


 相手は うなずくより
   ない様子で
  もう そのへんで

 いいわ という表情で
  見返している


   なにも 
  怖がることはない 
 当たり前の
手続きさ 
 わしの いいたいのは


      4
 それから 先のことさ

  斎場の電気炉で
 焼いてからのことだと

   のん気平兵衛は
   言いたいらしい 

  斎場の煙突から出る
   煙になるか

  電気炉の中に
  残っている残骸の
   お骨(こつ)
のことを
  言っているらしいが


  お骨 ではない 
 焼かれて空へ上って行く

  煙やちりのように
 目に見えるものではないが

    おそらく 
 1立法メートルに満たない

  ぼくのからだを
 作っている素粒子の中には

  ダークマター候補の中で
 ニュートラリーノのような
  重たい
素粒子だったら
 1個あるかないかだから

  宝くじに当たるより
 難しいかもしれないが

  アクシオンのような
  軽い素粒子だったら

 100兆個から10兆個は
  あるかも知れないから

 宇宙の至る所に 散らばり 
  ダークマターの仲間 
  になれるかもしれない   

    それが 
  これからの 夢さ !
    ちなみに

  ダークマターの必要条件
   を上げて見るよ


① どんな光も放出しない
  だから 人の目では
   見えない


② 原子やほかの
   ダークマターなど、

  どんなものとも
   ぶつからない。

  だから どこにでも
   入って行ける 


③ 宇宙初期の速度ゼロの
   冷たい物質

  だから いつでも
  沈着冷静でいられる


④ しかし総質量は
  見える物質の約5倍

 だから宇宙全体を支配し
  コントロール

  している存在

 とういう訳で 
  ぼくの夢は 


 ダークマターの仲間
 になって 宇宙全体を

 コントロールすること 
 新しい星の誕生にも
   かかわりたいし
  最終的には もう一度

   生命の誕生に 
  かかわれたら 最高だね

 
   おいおい 
  のん気平兵衛ったら 

 まるで 神様になりたいと
  言ってるみたいな

   言い方なんだ 
  相手もあきれたように

 それは 大した 夢だね 
   と言った後は
    二度と 
 夢の話には ふれなかった

ダークマターに 乾杯 !
   
  おお ダークマター 
   と呼ばれる君に

    乾杯 ! 
  君の すべてに
   あこがれます


        *
  君は 宇宙の始まりに
   うまれて

  その成り立ちから 
  転変する 様子を

  眺めてきたのですね 
    しかも

   君自身は 
  常に 冷静に

  物資同士が引き合って
    集まって 
   恒星を
つくり 
  銀河を 形成するのを
   眺めてきた まるで
 この宇宙のすべてのものの

 縁の下の力持ちであるように
   手助けはするけれど
  何も要求はしないという
  態度で 少しの邪心も
   いだくことなく


  君が手助けしてくれて
   できあがった

  天の川銀河の片隅の
   太陽系の惑星の

  ひとつである 地球
  そこで生まれ育った

  ぼくらのことも 君は 
  おそらく
助けてくれて
   いたのだろうね


  それなのに君は 
 姿を見せることもなく

  自分の 及ぼした
    力を

  誇示することもない
   その存在を

 明らかにしようとする人間の
 探索の 手を 擦り抜けて
  そこ ここの
  ぼくたちのいる

  日常の空間でも
  存在しているのかも
   しれないくせに

 明らかに ここに いると
 悟られることをゆるさない
  なぞの 存在 の ままだ

 もちろん 君は 
   神様ではない

 君は 神様からは まったく
    遠い存在だ
     君は 
  縁の下の力持ちにすぎない

     しかも 
  物理学者たちでさえも

   あきれるくらい
   自己主張をきらう

  恥ずかしがり屋なのだ―― 

 でも ぼくは 君のことを
   科学雑誌の記事で
    読み知るたびに 

   あこがれる気持ちを
    強くし いまや

  あこがれを 通り越し
    さらに

  恋する気持ちさえも 
   通り越して

  君の仲間に なれる時が
   きっと来ると

   信じるように
  なっているのです


         *
  ぼくが ダークマターの
   仲間になったなら

  いままでと ちがって
    せっかちで

   あわてん坊な 
  ところを返上します


 悠久の 宇宙の
   時の流れに 身を

 まかせるように ただ 
    縁の下の

    力持ちに 
  徹する つもりですから

 どうぞ お仲間に
  加えてください ! 


  のん気平兵衛が
   照れたように

    顔を 赤くさせた

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