広がり
○ 特別な町 取手
茨城県取手――
JR常磐線と利根川が十文字に交差するこの街には不思議な時間軸の交錯がある。
東京の都心とは40分から1時間足らずの時間距離である。
駅から利根川沿いに東へ徒歩十数分のあたりに、八重洲団地と呼ばれる一戸建ての古い住宅団地がある。おそらく東京駅の八重洲口の名を借りてつけた名前だと思われるが、戦後東京からの移住者が住んだ地域である。そのほかにも、市営住宅や集合住宅、マンション群のほか、隣接する土地、利根町、藤代、竜ケ崎での団地造成も相次いで行われ、多くの都会の住人が移り住み、バス便も整備されている。
ただし、その移り住んだ人たちの多くはその世代に留まり、次の世代の多くは外へ出て行き、また新しい人たちが入ってくるという代謝が繰り返されている。
しかし一方で、街の外郭に位置する土地をみると、別世界のような広大な水田地帯が広がっていることに不思議な感じを受ける。都心との時間距離がそのくらいの場所ではほかに類例は少ないだろう。
「農業」
が、この街では依然として基幹であり続けているのだ。
……
さて、この物語の主人公の少年である。彼は今日も、その利根川を渡る常磐線の鉄橋に近い河川敷の川辺で釣りをしていた。
三生康詩の常磐線沿線長編小説
『常磐線ドリーム いま・せん見っけ!』より
○ 取手に仙人が降臨
仙人とは何なのだろう。
仙人は四人で一組なのだ。何よりも、
宇宙創生の時点では一体だったのだから。
しかし、宇宙の進化の段階で機能分化し、
独立してからは、自分は自分、という気持ちが
強いのも、仙人の共通の特色かもしれない・・・
○ トピック
この一節は、小説「変身聖書~常磐線のカフカ ANOTHER BIBLE」のプロローグの冒頭の文章です。
三生康詩の小説の代表作に、4種の仙人を登場させる4連作がありますが、どの作品も、仙人の不可思議な力により奇想天外な超現実派の世界が展開されます。
そのシリーズについて、第一作の「常磐線ドリーム・いま・せん・見っけ!」から順番に紹介していきましょう。
「常磐線ドリーム・いま・せん見っけ!」
本文より
(最期の手順?)
(十一代目から十二代目への代替わり、でや。わしの役割が終わって、ショウが、十二代目IMANO仙人になる――)
(僕が死ぬんじゃないの?)
(は、は、は、は、死ぬのはわし。ショウが仙人になることで、仙人再生となる、十代目は、織田信長四十八歳の折、十一代目は、西郷隆盛五十歳の折、そして十二代目、梶木正太三十二歳。若いが、近い例がないわけではない。九代目楠木正成は四十三歳、八代目の源義経に至ってはショウよりも若い三十一歳、まあ、この二千年の間の先代たちの、あり様のことは、ショウが十二代目になれば、すぐわかることだから、ここでいう必要はないがな・・・)
○ トピック
いま・せん・ナウ(し解仙)が、心臓に住み着いた少年梶木正太は、日本国初代大統領に、そして12代目IMANO仙人になるのです。